TTOCJapan’s blog

日本の近現代史・政治・経済・文化・芸術を縦横に論じ、時に音楽や写真、国際問題も交えて綴る、知的で批評性に富んだ長寿ブログ。

世界の趨勢も、政府の意図も、自由主義社会の人間が持つべき普遍的価値観も、まるで感じさせない「儲けさえすればいい」という商人の発想による発言である。しかし、世界の動きは怖い。

以下は、「日本を滅ぼす」企業人と研究者たち、と題して、月刊誌Hanadaに掲載された門田隆将氏の連載コラムからである。
Hanadaは日本国民のみならず世界中の人たちが必読である。
まだ購読されていない人たちは今すぐに最寄りの書店に向かわなければならない。
何故なら本稿のような本物の論文が満載されているからである。
それでいながら、価格はたったの950円(消費税込み)なのだから。

今年1月以来、私は5か月間、ひたすらコロナを追い、取材し、原稿にまとめる作業を続けてきた。
このほど産経新聞出版から『疫病2020』を上梓した。 
すべての作業の中で、私が最も考えたのは、やがて日本の企業人や研究者たちが「日本を滅ぼす」ということだった。
この人たちは、儲けと利益、あるいは野心のためには、「母国がなくなっても構わない」と思っているのかと考え続けたのだ。 
コロナの感染拡大で中国経済がストップすると同時に日本経済が立ち往生したことは国民にとって衝撃だっただろう。
わかってはいたものの、さすがに「ここまで」中国に依存していたとは考えが及ばなかったのである。 
事態を重く見た安倍晋三首相は3月5日、未来投資会議を開催し、こう語った。 
「1国へのサプライチェーン依存度が高く、同時に付加価値が高いものについては、国内への生産拠点回帰を図り、そうでないものについても1国に依存せず、ASEAN諸国などへの生産拠点の多元化を図っていきます」 
この決意表明は、さっそく2020年度補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金として2200億円が組み込まれたことで政府の意思として示された。
すなわち政府による「中国から撤退せよ」という指令にほかならなかった。
しかし、私は、ジェトロが翌4月におこなった中国進出企業へのアンケート結果を見て仰天した。
中国の華東地域日商倶楽部懇談会が会員企業710社への質問で、実に9割がサプライチェーンや拠点の変更を行う計画が「ない」と回答したのである。 
2005年の歴史教科書反日暴動、2012年の尖閣国有化に対する反日デモ等でもわかる通り、中国進出企業は”何か”があれば、その度に必ず大きな損害を受けてきた。
だが、今、世界で起こっているのは、これまでのような一時的な政治の動きや出来事をきっかけにする騒動とは全く異なるものである。 
制御不能となった覇権国家・中国。
自由と人権、民主主義を踏みにじり、力による現状変更を堂々と行使してくるこのモンスターと、国際社会は普遍的価値を守るために対時しなければならなくなったのである。 
今回、コロナに関して独立調査を要求する豪州は、豪産牛肉の輸入停止や大麦の関税アップ、中国人の豪州旅行停止など、露骨な報復措置を受けているが、怯むようすはない。
そこにあるのは「ここで敗れれば、自由と民主主義の死を意味する」という固い決意と信念にほかならない。 
では、日本はどうか。
先の安倍首相が明らかにした方針にも拘らず、中西宏明・経団連会長は6月8日、定例会見でこう発言した。 
「日本は重要な市場である中国と良好な関係を維持する必要がある。経団連は両国経済界と引き続きアクティブに対話を重ね、一帯一路や自由で開かれたインド太平洋などへの取り組みを通じて経済発展に貢献していく」 
世界の趨勢も、政府の意図も、自由主義社会の人間が持つべき普遍的価値観も、まるで感じさせない「儲けさえすればいい」という商人の発想による発言である。 
しかし、世界の動きは怖い。
すでに米国は軍事転用可能な技術を中国へ供与する企業への監視を強化している。
もちろん日本企業も例外ではない。
狙われている中に連結利益2兆円を誇るトヨタ自動車がある。 
トヨタ燃料電池技術に目をつけ、ドローンヘの応用を目論んでいる中国に応じ、トヨタ清華大学との共同研究を通じて中国への貢献を果たそうとしている。
だが、ドローンの航続距離を大幅に伸ばし、武器として、あるいは偵察用として、軍事的に大きな力を発揮するためにトヨタ燃料電池技術が使用されるとしたら米国はどう出るだろうか。
ドローンが、日本、あるいは米国の上空に大量に飛来する図を想像してみたらいいだろう。 
そして、その技術も、外国の先端技術研究者や大学教授を招く中国の「千人計画」に基づき、破格の厚遇で呼び寄せられた人々によって形となっていることを忘れてはならない。 
温水プールやジムが完備された高層マンションに住み、公安局派遣の美人秘書をあてがわれた彼らは嬉々として中国のために研究成果を挙げている。
そして、その窓口となっているのは、日本学術振興会である。
平和ボケした日本の経済界や学術の世界が後悔しても、しきれないほどの事態、かつての東芝機械ココム違反事件の再来は「もうすぐそこ」まで来ている。 
今が歴史の分岐点であることもわからず、自由や人権を踏みつぶす側に加担する人々は、指弾されても、され過ぎることはない。