いま人類社会は歴史的な価値観の戦いの真っただ中にある…そのことを忘れてはならない

2020/10/6

以下は昨日の産経新聞に掲載された櫻井よしこさんの論文からである。
櫻井よしこさんは最澄が定義した国宝である。しかも至上の国宝である。
菅首相待つ中国の「わな」
国際社会は米国一強から、価値観を共有する国々の連携の時代に入った。
中国の膨張抑止のために価値観を軸に諸国が共同で国際秩序を守るその主戦場はインド・太平洋だ。
中でも焦点は日中関係だ。
歴史の大展開の中で地政学上重要な位置にある日本の行動次第で米中関係も大きく影響される。
わが国の役割の過小評価は禁物で、自由世界のために日本が引き受けるべき大きな責任から逃れてはならない。 
助け合うべき相手は米欧であり、中・長期的な脅威は中国だ。
中国は大事にすべき隣国ではあるが、彼らは人類史上類例のない長期的・組織的弾圧でウイグル人など少数民族を抹殺中だ。
四面楚歌は身から出たさびであろう。 
国際法に違反してまで勢力を広げる中国の挑戦を「受け入れなければならない」と語ったほど親中的だったメルケル独首相まで、いまやインド・太平洋諸国との関係強化に乗り出した。
それでも反省なき習近平国家主席は逆に積極攻勢を強める。 
菅義偉首相は各国首脳との電話会談で習氏との会談を豪州、米国、インドの後に回し、日米豪印という日本の概略の基本構図を踏まえた。だが、中国側が発表した9月25日の日中首脳会談の内容からは菅首相を待ち受ける「わな」が見てとれる。
中国は日本を「連携の一番弱い輪」と見て切り崩す戦略だ。
天安門事件で孤立した中国は海部俊樹首相(当時)を籠絡して制裁の輪をまんまと切り崩したが、菅首相を第2の海部氏にするつもりであろう。  
中国側発表では電話会談で習氏は次のように語った。 
「中国は国内大循環を主体とし、国内・国際ダブル循環が相互に促進する新たな発展の枠組みの形成推進に力を入れている。双方が安定かつ円滑な産業チェーン・供給チェーンと公平、オープンな貿易・投資環境を共に守り、協力の質とレベルを高めることを希望する」 
「国内・国際ダブル循環」とは、彼らが「双循環」(2つのサプライチェーン)と呼ぶ考えだ。
米国による中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)潰しが一段と厳しくなり、半導体関運の輸出がおよそ全て止められる中、今年5月に打ち出された。
この戦術は国内外のサプライチェーンをスムーズに進めることを目的とする。 
米国の攻勢に「中国製造2025」政策は行き詰まり、外貨は大幅に減り資本流出は年20兆円規模で続く。
人間を幸せにできない中国共産党支配の国から資本も人も逃げ出し続ける。
習氏はその動きを止めるために日本利用をもくろむ。
菅首相に日中間のサプライチェーンのより強い構築を提案し、中国切り離し、デカップリング(分離)を真っ向から否定したと読むべきだ。 
清華大学中国発展計画研究院の董煜執行副院長は双循環政策は中長期的戦略で、第14次5ヵ年計画(2021~25年)全体を貫く万針だと語っている。
今月開催の中央委員会第5回総会(5中総会)では中国共産党は35年までの超長期計廁を定める予定だ。
双循環はその中国の経済戦略の基本となるが、習氏は日本を引き込み超長期計画を支える力として利用したいと考えているのであろう。 日本の国益に反する申し入れに、中国側発表では、菅首相はこう答えている。  
東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の年内調印を確実にし、日中韓自由貿易協定(FTA)交渉を加速し、地域の産業チェーン・供給チェーンの安定を共に守ることを願っている」 
そもそも日本は、RCEPが中国主導の枠組みにならないよう、インドを説得して参加させた。
日印の協力で中国主導体制になるのを回避しようとしたのだ。  
ところが中国との貿易赤字に悩むインドが、RCEPから抜けた。
インド抜きのRCEPが中国主導に傾かないか。
年内の署名ではなく、先延ばしするのが国益ではないのか。 
また、日中サプライチェーンは進めるよりも減退減速が日本の国益ではないのか。
現在、うっすらと見えている菅政権の対中政策が全てだとは思わないものの、これらの向こうに日本の戦略が見えにくいのも確かで、懸念せざるを得ない。 
中国の政策は香港、ウイグル、モンゴル、チベット、どれをとっても受け入いられない。
台湾圧迫、南シナ海略奪、中印国境侵攻、ブータンの国土略奪は尖閣諸島沖縄県石垣市)の問題を抱える日本にとってひとごとではない。
世界の知的財産窃盗は今も続いている。 
中国国内では、習氏に抗す批判勢力はことごとく排除される。
異民族のみならず漢民族も習氏の思想に服従しない限り生き残れない。
大学では名門清華大学北京大学などで習近平思想の学習が必修とされた。
学問や思想の自由など全て門前払いだ。 
人民解放軍が中国政府でなく中国共産党に属し習氏の直接支配の下にあることは周知の事実だが、習氏は国務院の管轄下にある公安・警察も中央軍事委員会の下に置き、自らの直接指揮下に置いた。
全ての暴力装置の掌握にかける執念はすさまじい。 
司法、立法、行政、軍、警察、全権力を中国共産党が支配し、その頂点に立つ絶対権力者、習氏が全権を掌握する。
毛沢東政治の再現である。
このような習氏が要望する双循環への貢献を日本が受けいれる余地はないであろう。 
折しも6日、日米豪印外相会談が東京で開催される予定だ。
米国の政治状況が見通しにくい現在、日米豪印の連携を強めることが最上の対中外交だ。
中国が大切な隣国である事実に間違いはないが、いま人類社会は歴史的な価値観の戦いの真っただ中にある。
くれぐれもそのことを忘れてはならない。
この点を明確に認識し、大戦略の下で揺るがず、日本は日米豪印における最強の推進力となるのがよい。