ヒトラーがとらわれた「ゲルマン民族の優越性」と習近平国家主席の言う「偉大なる中華民族」はぴたりと重なり、

2021年10月22日
ファシスト全体主義は人間のエネルギーをより効果的に発揮させる方法であることを証明したことになった
2021年04月02日に、 文明、政治、経済の項として発信した章
見出し以外の文中強調は私。
産経新聞文化部桑原聡は、モンテーニュとの対話、「随想録」を読みながら、と題して論文を連載している。今日は98回目である。
ベルリン五輪前夜のごとし 
終了後から 悲劇は本格化

1933年に権力を掌握したヒトラーは当初、すでに開催が決定していた36年のベルリン五輪には乗り気ではなかったという。
いわく「五輪はユダヤフリーメイソンによる発明」。
ところが側近のアドバイスを受け、五輪をナチス・ドイツプロパガンダとして利用することを決意する。 
とはいうものの、「ゲルマン民族の優越性」という妄想にとらわれたヒトラーが推し進める領土拡張、人種差別、ユダヤ人迫害政策を理由に、ユダヤ人が多く暮らすアメリカやイギリスなどで「ベルリン五輪はボイコットすべきだとの声が上がっていた。
これを押さえ込んだのが、当時はアメリカ五輪協会会長で、のちに国際オリンピック委員会IOC)会長となるブランデージだ。
彼は「オリンピック大会は選手のものであり、政治家のものではない」との「正論」を説きボイコット阻止に成功する。
*先日、テレビ東京の報道番組の司会をしている日経新聞社員の山川が、これと全く一緒の発言を行った事、それを私が即座に批判した事は既述の通り。*
ただ、彼が大会前にベルリンを訪問し、宣伝大臣ゲッベルスや空軍大臣ゲーリングといったナチス幹部から歓待を受けていた事実は覚えておくべきだろう。
ベルリン五輪で4つの金メダルを取ったアメリカの黒人陸上選手、ジェシー・オーエンズを描いた映画「栄光のランナー 1936ベルリン」 (スティーブン・ホフキンス監督)の中では、ブランデージとゲッべルスとの間に裏取引のあったことがほのめかされている。 
そんなこんなで36年8月1日にベルリン五輪は開幕する。
前回のロサンゼルス大会を大きく上回る49の国と地域から4066人(男性3738人、女性328人)が参加、21競技129種目で競い合った。
ヒトラーは開催期間中、外国人訪問者に好印象を与えるため反ユダヤ活動を緩和する指示を出す。
16日間にわたる大会は、黒人であるオーエンスの活躍を除けば、ヒトラ―の狙い通りの結果となる。
金メダル獲得数は次の通りだ。 
ドイツ33▽アメリカ24▽ハンガリー10▽イタリア8▽フィンランド7▽フランス7▽スウェーデン6▽日本6▽オランダ6▽イギリス4… 
池井優慶応大名誉教授の論文「スポーツの政治的利用-ベルリンオリンピックを中心として」に、べルリン五輪をめぐるアメリカの歴史家とイギリスのジャーナリストによる興味深い指摘が掲載されていたので紹介したい。
まず歴史家のリチャード・マンデル。
その著書『ナチ・オリンピック』で、ドイツとアメリカ、イタリアとフランス、日本とイギリスを対比しながら辛辣にこう評している。 
ファシスト全体主義は人間のエネルギーをより効果的に発揮させる方法であることを証明したことになった》 
お次はジャーナリストのダフ・ハート・デイヴイス。
ヒトラーヘの聖火-べルリン・オリンピック』のなかで、外国から五輪観戦に来た観光客のこんな言葉を紹介している。 
(首都で愉快に過しているうちに、新聞で読んだ強制収容所ゲシュタポ本部の地下室がデマのように思われ出した》 
大会終了後、ヒトラーは牙をむき出し本格的に動き始める。
38年11月、ナチス突撃隊による「クリスタル・ナハ卜(水晶の夜)」といわれる反ユダヤ主義暴動が起き、ドイツ各地のユダヤ人の住宅や商店、教会が襲われ放火される。
41年6月には独ソ戦開始と同時に 「移動虐殺部隊」を創設、侵攻したポーランドリトアニアウクライナなどでユダヤ人、ロマ人、共産主義者を虐殺する。
そして42年1月、ユダヤ人問題の 「最終的解決」として物理的な絶滅を決定し、「絶滅収容所」を建設する。