わが国に中国・新核戦略の脅威が迫る…候補者らに、厳しい現状への認識はあるか。中国の脅威への認識はあるか

以下は本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読である。

わが国に中国・新核戦略の脅威が迫る
シンクタンク「国家基本問題研究所」による中国の軍事状況の分析で、中国が核戦略を根本的に変えたことが判明した。
このことが意味するのは国際社会の力関係、つまり米中関係の大きな変化はもはや回避不可能ということ、米国の核の傘に守ってもらう、いわゆる拡大抑止戦略に依存するわが国にとっては、背筋の寒くなるような安全保障上の構造的変化が起き始めたということだ。 
2019年版の国防白書で中国は、核戦略を自衛防御のためと定義して3つの具体的政策を示した。
①いついかなる状況下でも核兵器は先制不使用、
②非核国・地域に対しては無条件で、核の使用及び核による威嚇はしない、
③核戦力は国家の安全に必要な最低水準に維持、である。 
国際社会はこのような中国の核戦略を「最小限抑止戦略」と呼んできた。
その特徴は中国国防白書が明記したように、相手の核攻撃や核恫喝に対する自国防衛のための抑止力としての核保有である。
だからこそ、保有する核は最小限にし、先制不使用宣言を掲げているのだ、と捉えられてきた。
人民解放軍(PLA)が長年、核弾頭とそれを搭載するミサイルを別々に保管していたことも核の安全性の重視及び核使用についての慎重さを示すものだと解釈されてきた。 
それが明らかに変わったのだ。
PLAの現場で、核とミサイルが同じ場所に配備され始めた。
このことについて私は16年5月の段階で、PLAの晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)にミサイルと核弾頭が装填されていたことを当欄にて報じたが、中国の核戦略は少なくともこの頃から変化し始めていたということだ。 
中国核戦略の変化がはっきりと表面化したのが今年7月である。
28日に日米が外相・防衛相会合(2プラス2)と共に初の拡大抑止閣僚会合を開催したとき、中国は強く反発した。
彼らは外務省に日本大使館首席公使、横地晃氏を呼び出し、日本は「一部の国」と徒党を組んで中国に対抗するのを止めよ、中国と同じ方向に進めと警告したのだ。

35年には1500発 
注目すべきは中国国防部報道官の発言だった。
日本は米国による核抑止力を追求し、核拡散及び核衝突の機能を増大している、いかなる国家も中国に対し核兵器の使用及び核兵器による威嚇を行わなければ、中国から核兵器の威嚇を受けることはない、と語ったのである。同発言の意味するところを元陸上幕僚長の岩田清文氏が解説した。 
「右の発言の真の意味は、日米同盟によって日本が米国の核を中国に対する威嚇として使うのだと中国が判断すれば、日本は核保有国と同列だと見做すということです。つまり中国が19年の国防白書で示した②の基準、『非核国・地域に対しては無条件で、核の使用及び核による威嚇はしない』は、もう日本には適用されないかもしれないということです」 
対日戦略の変化は当然、対米核戦略の変化と表裏一体である。
これまで中国は最小限の抑止力として核を保有していたが、その建前を捨て去り、かつての米ソ間の核戦略相互確証破壊戦略を採用し始めたと見るのが正しいだろう。 
具体的には、中国は米国本土に配備されている核戦力に対する攻撃能力の強化を視野に入れ、多弾頭の大陸間弾道ミサイルICBM)の配備を加速するだろう。
新型の長射程対艦弾道ミサイルや、アメリカが対抗手段を確立し得ていない新型極超音速滑空ミサイル(DFー27)の開発等を急ぐと見なければならない。つまり、中国は先制使用を含む核の恫喝政策を遂行すべく、核能力をさらに高めると見るべきだ。 
中国の対日視線は冷厳そのものだ。
わが国はそのことを過小評価してはならない。
中国が核戦略をより攻撃的に変えた背景に、凄まじい勢いで核弾頭の数を増やしてきたここ数年の動きがある。
中国の核弾頭は2015年までは殆ど増えていなかったが、15年以降急増し、19年、23年と段違いに増加し始めた。
今や500発の核を有し、27年には700発、35年には1500発を持つと予測されている。 
通常、核戦力は3つの柱、①地上配備のミサイルに搭載、②潜水艦に搭載、③爆撃機に搭載、によって構成される。
中国の場合、主力は①の地上配備のミサイルだ。
それを②の海中深く潜航する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)で補完する構えだ。
③の爆撃機による核攻撃能力は開発途上だと見られている。
中国の地上配備のミサイルはどうなっているのか、衛星画像の分析が決め手となる。
国基研の画像分析によると、日本にとって怖ろしい状況が明らかになった。

日本を標的にしたミサイル 
日本を標的にした中国のミサイルとしてDF-21A、もしくはDF-21Eがあった。
英国の軍事専門誌「ミリタリー・バランス」は、中国はこれらを各々23発及び40発保有していたと報じていた。
それが今、ゼロになっている。
老朽化に伴い退役して、新しいミサイルに置き換えられたと見てよいだろう。 新しく登場したのがDF-26とDF-17だ。
DF-26は射程3000㎞~4000㎞で、グアムに届くため、グアムキラーと呼ばれている。
DF-26の第一の特徴は、搭載する弾頭を通常から核へ、核から通常へと取り替えられることだ。 
衛星画像から分析できるのはそれだけではない。
ひとつひとつの旅団の訓練状況から、旅団が核の任務と非核の任務の両方を負っていることが見てとれる。
たとえば彼らは戦闘準備体制と厳戒体制を絶えず繰り返していることがわかる。 
さらに前線活動の訓練の中で、核弾頭と通常弾頭を素早く交換する訓練がなされていることも確認された。
専門家がホットスワップと呼ぶ右の訓練がDF-26に関してなされていることは、ミサイルと核弾頭を別々に保管すべしとしていた中国の政策はもはや存在しないことを意味する。
すでに一部のDF‐26旅団では核弾頭の一部が平時からミサイルに搭載されており、即応体制が維持されているとの指摘も忘れてはならない。
日本を狙うもうひとつのミサイル、DF-17は極超音速滑空ミサイルだ。
現在は通常弾頭仕様だが、将来、核弾頭搭載能力を備える技術的改修がなされると見られている。
中国はこのDF-17の配備を拡大中だ。
先述したようにこれを迎え撃つ手段は米国にもない。 
中国が核戦力において米国と対等の立場に辿り着いたと確信するとき、中国の対外政策は現在のそれよりはるかに強硬で、まさに力による現状変更政策となるだろう。
わが国は少なくともそう覚悟して、国力を強化し、米国との協力を、わが国の国益の基本として緊密化し、現実に機能するものにしなければならない。 
自民党総裁選たけなわである。
候補者らに、厳しい現状への認識はあるか。
中国の脅威への認識はあるかと問うものだ。
 
 
2024/9/26 in Umeda