●ある種の万能感を有し、自分は常に正しいと考える傾向が強い。 そのため、「ダイバーシティ」を標榜しながら、自らの意見と異なる言論をしばしば封殺する。●反権力や弱者救済を掲げる一方、自ら権力を得たいという欲求が強く、立身出世に執着する。

以下は前章の続きである。
左翼は理論系に多く 工学系に少ない? 
以後の議論では、イデオロギーの区分として「左翼」という言葉を使うが、この言葉には定義の曖昧性があるので、本稿での定義を先に述べておく。
本稿でいう左翼は次の特徴を有する思想を指す。 
●表向きは「リベラル」を標榜するが、実際には自分および自ら共感を寄せる集団の自由にのみ関心があり、それ以外の人間の自由には関心がない。
自由や人権を弾圧する国家に共感を持つことも多い。 
●ある種の万能感を有し、自分は常に正しいと考える傾向が強い。
そのため、「ダイバーシティ」を標榜しながら、自らの意見と異なる言論をしばしば封殺する。 
●反権力や弱者救済を掲げる一方、自ら権力を得たいという欲求が強く、立身出世に執着する。
奉仕の精神に乏しく、社会貢献には関心が薄い。 
●現実に起きていることよりも自らの頭の中にある理想を優先させる。
自分の思想が現実と合わない場合、自らの考えを修正するのではなく現実を非難する。
 

*私は、上記の特徴が全て、「松川るいの言動」に当てはまる事に気づいた。彼女は東大卒業生である。
彼女と同様な東大卒業生が多い、官僚や議員に対して、門田隆将氏は、彼らの「万能感」が彼らの誤謬の根源である事を常に厳しく批判している*

このような特徴を持つ思想は、本来「左翼権威主義」と呼ぶべきかもしれない。
しかし、権威主義的でない左翼は残念ながら現在の日本の学界には少ないので、本稿では「左翼」と省略させていただくことにする。

言葉の用法で困るのは「リベラル」である。
私は学問の自主独立を守るという立場なので、左翼権威主義とも右翼権威主義とも戦うリベラルを自認している。
ところが、左翼権威主義者が「リベラル」を自称するため、リベラルを名乗ると左翼権威主義者と間違われてしまうことになる。 
リベラルである以上、学者たちが学者の肩書を使って右翼的な政治活動を始めれば、私はここで書いた論拠に基づいて同じように批判する。
当然、左翼学者も私と同じ論理を持ち出して、激しい抗議をするだろう。
そういうダブルスタンダードが左翼の真骨頂である。
しかし、今の日本の大学で、学者の肩書で右翼的政治運動をしている人は稀有である。
一方、学者の肩書で行われる左翼的政治活動は、「安全保障関連法に反対する学者の会」以外にも、2017年の日本学術会議による「軍事的安全保障研究に関する声明」など、その数は少なくない。 
そのため、保守論壇ではアカデミアに属する人はほとんど左翼であるという誤解が広がっているようである。
しかし、私の経験則では、工学などの実学では左翼の人はほとんどいない。
そのことは180ページで紹介した調査結果(表3)でも裏付けられている。 
われわれ工学者は、新たな機能を持つものの実現を目指して、研究開発の過程で何度も実験を繰り返す。
しかし、実験のほとんどは失敗である。
こうすればうまくいくと思っても、何か見落としがあるという現実を何度も突き付けられる。
そうやって何十回と失敗を繰り返した末に、漸く所望の機能が実現するのである。
実験に失敗して、実験結果を批判しても、何も生み出すことはできない。
日々反省の連続である。
こういう経験をしていると左翼権威主義のような考え方にはなれない。 
同じ理系でも、理論系の学者は左翼の人が多い。
彼らは、実験失敗の洗礼は受けない。
その一方、勉強は得意なので、間違った万能感を持ちやすい。
冒頭の調査でも、物理学者と数学者が署名リストに多く含まれている。 
一つエピソードを紹介しよう。
数年前、ある国際学会で知り合った数理工学が専門の大学教員と夜飲む機会があった。
彼にあなたの理論を実用に結びつけるような研究をしないのかと尋ねると、返事はこうだった。 
「理論だけで放置した方が他の人がそれを使った実用研究をやってくれるので、自分の論文が沢山引用されて引用数を稼げる。」 
その言葉を聞いて、左翼的な人だなと思ったが、その勘は正しかった。
その後国際情勢の話になり、「中国に飲み込まれたら学問の自由もなくなる」と私が言うと、彼はこう言い返してきた。
「中国にもいいところはある。日本の政治家は世襲だし、女性議員も少ない。その点、中国の方が平等だ」。
私は仰天してこう返した。
「だって中国共産党の政治局常務委員の7人は全員男性だし、世襲太子党という勢力もあるでしょ。それはおかしいよ」。
さすがに彼は何の反論もできなかった。
 
表3の署名リストには生物学者も多く含まれている。
生物学は基本的に実験科学なので、今までの議論からすると意外に思われるかもしれない。
しかし、私の経験では生命科学分野にも左翼は少なくない印象がある。 
実は、生命系の研究室は相当「ブラック」なところが少なくない。
個々の研究者は、PI(研究室主宰者)のもと長時間働かされる。
PIが絶大な権力を持つので、権力闘争も激しくなりがちである。
私は大学院進学で生命系から工学に移ったとき、あまりの自由さにカルチャー・ショックを受けたのを覚えている。

この稿続く。