こうした情報の狙いは再処理工場を廃棄に追い込み、核燃料サイクルを崩壊させ、日本の原子力全体を葬り去ることだ。

2018/8/6に、日経新聞フロントページに掲載された櫻井よしこさんの論文は活字が読める日本国民全員が読まなければならない論文である。
この論文を読んだ日本国民全員は、ここに真の国士がいること、しかも女性であり、私たちの先輩である事を思って頭を垂れるはずである。
見出し以外の文中強調は私。

菅直人政権と瓜二つでは
地域によっては41度を超える異常な暑さの中、政府は7月、1030年および2050年を見据えた第5次エネルギー基本計画(第5次計画)を閣議決定した。
30年の満期を迎えた日米原子力協定も自動延長した。
こうした中で国の原子力委員会は、新たな指針で「プルトニウム保有量を減少させる」と公表し、岡芳明委員長は現在保有量が47トンを超えるプルトニウムヘの懸念を示した。
国民には分かりにくい事案だが、実は豊かで安心な暮らしの根本である電力の安定供給を、これからも日本は続けていけるのかという意味で非常に大事な事柄である。
エネルギー政策を見ると、驚くべきことが浮き彫りになる。
自公政権の政策が旧民主党菅直人政権の政策とぴったり重なるのだ。
自公政権は菅政権の基本路線をそっくり受け継いで今日に至る。 国益や国民生活の安寧よりも、反原発イデオロギーそのものの菅政権の政策と瓜二つの自公政権のエネルギー政策は、すでに破綻している。
わが国の未来を見据えたはずの今回の第5次計画そのものが実現不可能である。
国の補助や優遇策なしに経済的に自立することと脱炭素化の切り札となるという2つの要件を満たす形で、太陽光や風力による再生可能エネルギーを30年までに全電源の22~24%に増やし、主力電源化すると第5次計画は謳っている。
現在、太陽光由来の電力は全体の4.4%、風力は0.6%だ。
再生エネルギーは未来の主電源として大切であり、国家戦略の柱のひとつとしてR&D(研究開発)に力を入れるべきだとは思う。
しかし、近未来、太陽光や風力のように変動する電源を主力電源に据えることは気象学、経済学の視点から極めて難しい。
あと10年余りで見通しは開けるのか。
専門家の意見は否定的だ。
再生エネルギーはもっと先の目標として位置づけるべきだろう。 一方、今すぐ供給できる電源に原子刀がある。
しかし、第5次計画は正面から向き合わない。
原発依存度を可能な限り下げつつ、安全性を高めた上で再稼働に踏み切ると記述するだけで原発電源を一体何%に保ちたいのか。
素案段階で示されていた20~22%という目標は削除された。
このことと、前述したプルトニウム削減方針などを合わせて考えると、日本は不安定な再生エネルギーを補うために、石炭などの化石燃料への依存度をますます高める方向に行かざるを得ない。
中国は世界最新型の原発200基態勢に加え、石炭による地域熱供給を激減させるため、143ヵ所に20万kWの原子力発電の小型モジュール炉(SMR)を建設すると宣言した。
中国も世界もより高度の原発エネルギーを土台とする国造りに邁進する中、日本だけが完全に脱落するのか。
わが国の原子力政策は文字通り、根幹から崩されようとしている。
日本は原発燃料のウランを米国などから輸入し、原子炉で使用したウラン燃料を処理してプルトニウムを抽出してきた。
これを高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県)や普通の軽水炉プルサーマル)で再利用するのが核燃料サイクルで、日本の原子刀政策はこの基本の上に成り立つ。
ところが、もんじゅ廃炉と決められた。
核燃料サイクルを維持するにはプルサーマルしかない。
再稼働した原発のうち、プルサーマルが可能なのは4基のみだ。
一基の年間消費量はプルトニウム0.4トンである。
3年後に完成するとみられる青森県六ヶ所村の再処理工場が稼働すれば使用済み核燃料の再処理で年間8トンのプルトニウムが抽出される。
そこでプルトニウム保有量を減らすという原字力委員会の“公約”を実行するために、使用済み核燃料の再処理をしない、もしくは再処理を制限するという議論が生まれている。
原子力委員会の方針は、日本の核燃料サイクルを断ち切り、原子力産業を終焉に向かわせるものと読める。
菅氏の企みとぴったり重なるではないか。
再生エネルギーの巨額負担を国民に払わせ、原子力政策に失敗し、石炭などの化石燃料に突出して頼り、C02の大量排出国に転落する。
なぜわが国はこんな愚かな道に追い込まれるのか。
米原子力協定の自動延長に至る中で日本側で、あるいは米国側からも飛び交ったのが「日本のプルトニウム保有量47トン」「原爆約6千発分」「核拡散の危険」などの情報だった。
だが、これらは正確ではない。
日本の保有する47トンのプルトニウムは、原子炉級プルトニウムであり、核兵器になる兵器級プルトニウムとは組成も異なり純度も著しく低い。
日本のプルトニウムのうち約36トンは英仏両国に委託して再処理したもので両国が保管している。
また六ヶ所村の再処理工場には国際原子力機関IAEA)の査察官が常駐しており、日本は厳しい管理の下にある。
日本が原爆を造ることなど科学的にも物理的にも不可能である。
日本のプルトニウム保有には何の問題もない。
問題解決の唯一の方法は再処理工場の稼働と核燃料サイクルの完成だ。
にもかかわらず、不正確な、あるいは特定の目的を内包した情報の前で日本全体が萎縮した。
メディアは、日米原子力協定が自動延長されると早速、「国際社会の懸念」を報じた。
NHK解説委員の水野倫之氏に至っては「中国や北朝鮮が日本を名指しして核開発の可能性を指摘した」と論難した(8月1日「時論公論」)。
こうした情報の狙いは再処理工場を廃棄に追い込み、核燃料サイクルを崩壊させ、日本の原子力全体を葬り去ることだ。
日本のエネルギー政策に責任を持つ安倍政権は、反原発情報で日本の未来が危機に直面していることを自覚してエネルギー政策の立て直しに取り組むべきだ。
 
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